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この記事の内容
ポーランドの義務教育は6歳の0年生から始まります(小学1年生の前の段階)。義務教育そのものは2019年9月以降、小中学校を卒業した15歳までに変更されました。とは言っても、本当に15歳で就職する、学校に行かないというケースはかなり珍しいです。
日本の義務教育も中学卒業までの “15歳” なので「日本と似てるな」と思う人も多いでしょう。しかしポーランドには中学校がなく、学校制度は大きく異なります。パッと聞いただけでは混乱しがちなので、当記事で分かりやすくポーランドの教育システムをまとめました!
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この記事の目次
❶ 2017年の教育改革で大幅改変
教育改革前 義務教育13〜14年
教育改革後 義務教育9年
❷ 保育施設と就学前の幼児教育
年齢別の幼児教育システム
0〜3歳 żłobek – 保育園
3〜5歳 przedszkola – 幼稚園
6歳 zerówka – ゼロ学年
❸ 小学校は8年制(小中学校)
小中学校のシステムや特徴
小中学校8年間で学ぶ科目
小中学校の学期構成と長期休暇
授業・休憩時間と評価の方法
義務教育でも進級できない場合アリ
❹ 小中学校卒業後は高校か技術学校
高校や技術学校の特徴、試験
専門職に就きたい場合は技術学校
高校や技術学校で学ぶ科目
卒業前の全国共通高校卒業試験
❺ 高校生の95%は大学進学を希望
❻ 日本とはココがちがう!
❼ 学習レベルは高く、EUでは上位
❽ この記事のまとめ
全国公立教師が政府にストライキ!ポーランドの教師事情、平均収入を紹介
小学校でも留年アリ! 日本と方針が違いすぎて衝撃的なポーランドの学校教育事情(GetNavi web での執筆記事)
2017年の教育改革で大幅改変
当記事を読み進める前にまず知っておきたいのは、2017年に実施された教育改革(reforma systemu oświaty)について。
2017年までの教育システムは概ね日本と似ており、小学校6年→中学校3年→高校3年(技術学校4年)と進んでいきました。
しかし改革後は小学校が8年に延長されて小中学校となり、中学校(ギムナジウム)は廃止、高校は1年延長して4年となっています。
実は、この改革後の構造は1999年までのものとほぼ同じであるため、ほとんどの親や教育関係者にとっては「自分が子どもだったときのシステムに戻ったのか」という感覚。
教育構造はEU内でも国によって異なり、日本人としてはややこしく感じます。
ただ教師育成にも関わることからそうそう変わるものではないため、少なくとも今後何十年はこのシステムを保つことになるでしょう。
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教育改革前 義務教育13〜14年
2017年8月31日まで | ||
1 | 0学年 – zerówka | 1年 |
2 | 小学校 – szkoła podstawowa | 6年 |
3 | 中学校 – gimnazjum | 3年 |
4 | 高校 – szkoła ogólnokształcące | 3年 |
or 技術学校 – technikum | 4年 | |
or 専門学校 – szkoła zawodowa | 3年 |
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教育改革後 義務教育9年
2017年9月1日から | ||
1 | 0学年 – zerówka | 1年 |
2 | 小中学校 – szkoła podstawowa | 8年 |
3 | 高校 – szkoła ogólnokształcące | 4年 |
or 技術学校 – technikum | 5年 | |
or 専門学校 – szkoła branżowa | 5年 |
教育改革後の高校卒業時は18/19歳となり、多くの学生が大学進学を選択します。大学は教育改革に含まれず、これまで通り3〜4年で卒業となります(学科によって異なるがほとんどは3年)。
保育施設と就学前の幼児教育
ポーランドで就学前の子どもを施設に預ける場合、0歳〜3歳までは保育施設、3歳〜5歳までは幼稚園に通うことになります。
3歳までの子どもは預けずに親や身内が世話することが多いですが、3歳以上の未就園児は約20%(都心部は10%前後)。
一部地区では公立幼稚園における待機児童問題が発生しているようで、教育改革直後は募集一時停止もあったりと混乱を呼びました。
費用は、公立なら約140〜200PLN(食事代込&およそ7時間の預かり)。
私立だと、助成金を受けられる場合は200〜500PLN(食事代込だと+150PLN前後)となり、助成金対象にはならない私立幼稚園となると最大で2,000PLNにもなります。
そして日本との大きな違いは、6歳から始まる義務教育・ゼルフカがあること。
小学校に入る前の準備教育として、幼稚園か小学校で500時間以上のレッスンを受けます。
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年齢別の幼児教育システム
乳幼児は託児所やキッズクラブ(保育施設)に預けることができ、保育士が世話をします。最も幼くて生後20週から保育施設に預けられますが、1歳前後だと個人契約でナニー(ニャニャ)を雇うのもごく一般的。保育園ではお遊戯、運動、簡単な英語教育などを受けることができます。
後述のゼルフカを除き、幼稚園に入るかどうかは親の任意。一方、8割以上の子どもは3歳になると幼稚園に通います。幼稚園では集団行動の中でコミュニケーションスキルを向上させ、読み書き、算数、英会話、聴覚・視覚ゲーム、図工、スポーツなどの幼児教育を受けることができます。
日本でいう小学1年生相当の就学準備クラス。幼稚園または小学校のゼルフカに通うことができ、いずれもカリキュラムは変わりません。幼稚園は遊びを取り入れながらの教育を重視し、学校は学習中心となります。食事内容や預け時間も異なり、親の都合や子どもの性格を基準に判断します。
小学校は8年制(小中学校)
2017年の教育改革以降、ゼルフカを修了した7歳の児童は小学校と中学校を一体化した小中学校(義務教育学校)に入学します。
小中学校では2つの学年区分があり、1〜3年生はステージ1、4〜8年生はステージ2および3の学習プログラムが適用されます。
最初の3年間はいわゆる初期教育であり、日本の低学年の学習内容とほぼ変わりません。
日本における中学校が小学校に含まれ、順調にいけば卒業時は15歳です。
教育改革前にあった3年制の中学校(ギムナジウム)は小学校に統合されて廃止となったので、進学先は高校か技術学校になります。
8年生を修了するには国語、数学、外国語の3つの科目試験を受ける必要があり、2024年以降は選択科目も加わって4科目。
受験は必須であるものの合格・不合格はないため、落第することは基本的にありません。
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小中学校のシステムや特徴
1〜3年生は国語、算数、社会、自然科学、美術、技術、情報、音楽、英語、体育を主に学びます。4〜8年生になると上記に加え、歴史、地理、生物、物理、化学など計18科目を学びます。これらの中でも特に授業時間が多いのは国語、数学、外国語、体育。また、ほとんどの学校では宗教や倫理の授業を任意で受けることができます。
新学期は9月1日から始まり、翌年8月31日に終わる2学期制。1学期は6月下旬に終わり、それから9月下旬までは夏休み(ferie letnie)です。そして2学期が始まり、1月中旬から2月まで2週間の冬休み(ferie zimowe)を挟んで8月31日に2学期が終了します。ほか、12月23日〜1月1日はクリスマス休暇(zimowa przerwa świąteczna)、1週間のイースター休暇(wiosenna przerwa świąteczna)があります。※高校も同様
小学校は週5日または週6日となり、基本的には週5日です。授業は午前8時に始まるのが一般的で各授業は45分。休憩時間は5分〜25分程度で昼食時間は特に設けられていません。高学年になると授業数が増え、午後2時〜3時頃に学校が終わります。評価は学期が終わるごとに受け取り、1〜6段階評定。数字が高いほど評価が高く、1-D=不可、2-C、4-B、5-A、6-A+ となります。
4年生に上がる前のテストで最低評価が複数あった場合は再試験となります。また、やむを得ない理由であっても、学習が著しく遅れている場合は1年延長になる可能性があります。2018/2019年以降、小学校8年生修了前は全国統一の8年生修了試験(egzamin ósmoklasisty)を受験し、修了証明書を受け取ったら義務教育は終了。
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小中学校卒業後は高校か技術学校
小中学校を卒業すると、4年制の高校または技術学校(特定の職業に就くための専門的な勉強をする職業訓練校)に進学できます。
高校には日本ほど競争は激しくないもののランクがあり、成績が優秀な生徒は別試験を受けることで高校を選ぶことも可能。
私の夫は数学オリンピックで入賞し、優遇措置として試験なしで好きな高校を選べたとか。
また、通常は15歳で入学し、一般高校であれば卒業する頃には19歳です。
(2022年以降の日本と同じく)ポーランドでは18歳で成人を迎えるので、高校を卒業したらもうすっかり大人ということですね。
そして高校4年の5月、マトゥラという全国統一の高校卒業試験を受けます。
試験評価はパーセンテージで最低3割あれば合格となり、進学を希望する場合は大学レベルに合わせて高得点を得なければなりません。
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高校や技術学校の特徴、試験
美容師、調理師、整備士、電気技師、エンジニア、プログラマー、IT系などの技術職は5年制技術学校、専門職でも教師、医師、歯科医、弁護士などを目指す場合は大学進学のために4年制高校を選択します。日本でいう工業高校や高専は、ポーランドでは技術学校に分類されるでしょう。 5年制技術学校は、4年制高校と3年制工科大学を卒業した場合と同等の知識か、それ以上の実務経験を得ることができると言われています。技術学校を卒業したあとは進学せずに就職するのが一般的。
小中学校でも学ぶ基本科目(国語、数学、社会、歴史、生物、化学、情報、音楽、英語、体育など)のほか、文化や経済、第3言語が加わります。任意で倫理と宗教の授業があり、選択科目として歴史、生物、物理などをさらに深く学びます。この中で最も授業時間が多いののは国語、外国語、数学、体育、そして選択科目。技術学校では職業訓練を目的とした授業がほとんどを占め、卒業までに特定の職業や分野における資格を取得します。
高校生や一部の技術学校生は、卒業前の5月にマトゥラ(Matura)という全国高校共通卒業試験を受けます。大学入試である一方、(就職時に提出を求められることがあるため)進学しない学生も受験するのが特徴。必須科目は国語、数学、外国語の3つとなり、希望の学部によっては追加科目を受験しなければなりません。2015年以降、評価はパーセンテージで表されるようになりました。試験をパスするには最低3割を確保しなければなりません。
高校生の95%は大学進学を希望
ポーランド経済研究所によると、一般高校に通う生徒の9割以上は大学進学を目指しており、進学を希望しない学生はわずか5%!
ポーランドには2021年時点で390の大学があり、その内132校が公立となります。
公立であれば学費は無料のため、日本より大学進学率が高いのはある意味当然でしょう。
ただし、希望の大学や学部に合格できるかどうかはマトゥラの結果次第です。
結果が振るわなかった場合、大学や学部を変えるか、翌年に再受験して志望大学を目指すか、専門のコースに通うなどして就職します。
大学の学士課程は分野により3〜4年、修士課程は1.5〜2年、博士課程は2〜4年。
また、10月1日から6月末までの2セメスター制となり、進級するには学年の終わりごとに実施される試験に合格する必要があります。
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大学生が多い都市ランキング TOP5 | ||
1位 | ワルシャワ | 23万5千人 |
2位 | クラクフ | 14万3千人 |
3位 | ポズナン | 11万9千人 |
4位 | ウッヂ | 8万3千人 |
5位 | グダニスク | 6万8千人 |
参考:bankier.pl
Niemal wszyscy maturzyści chcą iść na studia
日本とはココがちがう!
ポーランドでは幼稚園から大学まで公立の教育機関が圧倒的に多く、課外授業・旅行代金などを除き費用はほとんど発生しません。
つまり、小さい内から学費を積み立てなくても大学まで進めるし、費用が賄えないために進学を諦める必要もないということ。
その分税金等は高くなりますが、奨学金という名の借金を抱える若者はごくわずかです。
マトゥラの成績が思わしくなく私立に通わざるを得なくなったとか、実家から離れるので家賃や生活費が必要とか、そういった場合は奨学金を申請する人が多くなります。
ただし公立大学であれば格安の学生寮があるので、遠方の学生は寮に住むのが基本です。
また、驚くべきことにポーランドの学校や大学にはランチタイムがありません!
授業の合間には5〜25分程度の休憩があり、それぞれ個人に合うタイミングで食べます。
学校は学ぶための場所なので休憩時間も最低限、ということは掃除の時間もナシ。
「日本の学校では生徒も掃除するし、なんなら先生もやってる」と夫に言うと、「掃除は清掃員がする仕事でしょ」と驚いていました。
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公立だと学費はほとんどタダ同然
一部私立を除いて制服がない
昼食時間や掃除の時間はない
進学校ではイマージョン教育も標準
クラブ活動はそれほど盛んではない
小中学校や高校にプール設備がない
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学習レベルは高く、EUでは上位
世界各国で教育システムは異なるため厳密に判断するのは難しいですが、国際的に学習能力を測る手段としてPISAがあります。
PISAは学習調達度調査の英語略で、国際機関・OECDが世界約80ヶ国(2018年)の15歳生徒を対象に行なっている評価。
日本はもちろん、ポーランド含めほとんどのヨーロッパがこのOECDに加盟しています。
調査対象となるテーマは読解力、数学的知識、科学的知識の主な3つ。
2000年に第1回調査が行われて以来、3年毎に計7回実施されました(直近調査は2018年、次回は2021年で結果は翌年12月発表)。
初回調査では日本は数学的知識1位、科学的知識2位だったものの、調査を重ねるごとに下位へ落ちてしまい、近年は中国、シンガポール、マカオ、香港がトップです。
総合的にはアジア圏が優勢で日本も上位。
そして2018年度調査でEU加盟国に絞った場合、ポーランドは読解力4位、数学的知識と科学的知識3位という結果でした。
ポーランドより上の国はエストニア、フィンランド、アイルランドなどで、日本人的にちょっとマイナーな国が上位を占めています。
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2018年度調査の結果(79ヶ国) | |||
読解力 | 数学的知識 | 科学的知識 | |
1位 | 中国(北京、上海、広東、江蘇) | ||
2位 | シンガポール | ||
3位 | マカオ | ||
4位 | 香港 | エストニア | |
5位 | エストニア | 台湾 | 日本 |
6位 | カナダ | 韓国 | フィンランド |
7位 | フィンランド | エストニア | 韓国 |
8位 | アイルランド | 日本 | カナダ |
9位 | 韓国 | オランダ | 香港 |
10位 | ポーランド | 台湾 |
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そして日本とポーランドの学校には教育システム以外にも違いが多々あり、中でも衝撃なのはランチタイムがないこと。ポーランド人も学校の休憩時間は短いと感じているようで、最近では30分の休憩を設けている学校も増えてきているとか。
一方でレベルの高い学校では英語以外の科目を英語で教えるイマージョン教育が行われており、英語以外にもドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語などを学ぶことができます。最近では日本語を教える高校もあり、実際に夫の叔父が務めるカトリック系私立高校では日本語教師(ポーランド人)がいるとのこと。私も、高校教師である夫の親友から「日本語教師にならない?」と誘われています