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前回の【チャルトリスキ美術館の見どころガイド】では Klasztor(修道院)エリアのほうまで案内しましたが、そこから再びヴェッティン家(サス)の部屋まで戻り、宗教装飾品が並ぶ部屋の方向へ進んでください。
王に仕えた聖職者の装い ― 権威と信仰
こちらは17世紀に制作されたカトリックの典礼用祭服一式で、ミサの際に聖職者が着用していた衣装をまとめて見ることができます。中央のゆったりとした形の衣は司祭が着るカズラ(ミサで司祭が着る外衣)、その両側には助祭が着用するダルマティカ(助祭の衣)が配置されており、さらにストラ(首にかける帯)やマニプル(腕にかける布)といった付属品も揃っています。
この一式は、クラクフの司教であったピオトル・ゲンビツキの寄進によるもので、17世紀半ばのフィレンツェとスペインで制作されたもの。ゲンビツキは宗教面だけでなく、ポーランド王に仕える政治家でもあり、17世紀のポーランドで最も影響力を持つ人物の一人でした。遠く南欧で作られた精巧な織物がポーランドの教会にもたらされたことから、当時のヨーロッパにおける文化や信仰のつながりの広がりも感じられる作品です。豪華な織物に施された繊細な刺繍が印象的で、宗教儀式の厳かな雰囲気や当時の美意識の高さが伝わってきます!

ミステリアスなポーランドの棺肖像
次の部屋には、葬儀装飾品が並んでいます。
これらは16〜18世紀のポーランドで見られる「棺肖像」と呼ばれるもので、貴族や重要人物が亡くなった際に棺の前面に取り付けられた肖像画です。六角形に近い独特の形は棺の形に合わせているためで、葬儀の場でまるで本人がそこにいるかのように見せる役割を持っていました。非常に写実的に描かれ、正面から視線が合うように表現されているのも特徴で、見る人に強い印象を与えます。このような棺肖像はポーランド・リトアニア共和国の貴族文化に特有のものであり、当時の死生観や社会的価値観をよく表すものでもあります。ちなみに、手前の人物は、17世紀の国王ヤン3世ソビエスキ。
手のひらサイズの美術品、根付の魅力
いよいよ、1階最後の部屋にやってきました。ここにはペルシャや中国、そして日本など東洋芸術の作品が並んでいます。日本人として、こんなところで日本の芸術品が見られるなんてちょっと嬉しいですよね。
こちらに並んでいるのは、日本の伝統的な工芸品である「根付(ねつけ)」のコレクション。根付は、江戸時代に印籠や巾着などを帯から提げるための留め具として使われていたもので、小さなサイズながらも非常に精巧な彫刻が施されています。素材は主に象牙で作られており、手のひらに収まるほどの大きさの中に、職人の高度な技術が凝縮されていて、つい見入ってしまうこと間違いなし。小さな芸術に広がる豊かな表現は、日本の美意識や遊び心を感じさせる魅力的な文化の一つです。
お目当てのダ・ヴィンチまでもう少し!
先ほどの部屋を通過後、階段またはエレベーターで上の階へ進んでください。この階の展示は、レンブラントやダ・ヴィンチの作品を含むポーランド以外のヨーロッパから集められた芸術品が多く、最後は再びポーランドに関連する展示で締めくくられています。
この写真にある空間(次の展示エリアへの連絡通路付近)は、もともと中庭だった場所を改修し、ガラス屋根で覆うことでアトリウムとして再構成されたもの。歴史的な建物に現代的な構造を組み合わせた設計で、上階の回廊からは吹き抜けのホール全体を見渡すことができます。こうした中庭を覆ってアトリウム化する手法は、大英博物館などヨーロッパの美術館でも多く見られます。

小さなピースで描くモザイクの世界
最初の展示エリアには宗教的な作品が数多く並んでおり、たとえば、この写真にある人物は聖パウロというイエスの十二使徒の一人です。もともとはキリスト教徒を迫害するユダヤ教徒で、教会を荒らすほど激しく対立していたとされますが、後に回心し、キリストの教えを広める側へと転じました。その生涯からは、「どのような罪を背負った人であっても、神は受け入れてくださる」というメッセージを読み取ることができます。
この作品はモザイク技法で制作されており、石やガラス、陶磁器などの小さな素材を一つひとつ組み合わせて表現されています。こうした小片は「テッセラ」と呼ばれ、絵の具ではなく素材そのものの色や質感によって像を描き出すのが特徴。モザイクは古代ローマ時代から発展してきた技法で、特にキリスト教が広まると教会の壁や天井を飾る重要な表現として用いられるようになりました。光を受けて輝くガラスや金色の背景は、神聖さを象徴する役割も担っています。また、近くで見ると細かなパーツの集まりであることが分かりますが、離れると一つの像として浮かび上がるのも魅力の一つです。
古きキリスト教美術と信仰のかたち


こちらはキリスト教に関連する宗教美術の展示で、十字架や聖人像、祭具などが並んでいます。装飾的な十字架は典礼(礼拝や教会の儀式)で使用されていたもので、金属や宝石の装飾が施され、信仰の象徴として重要な役割を担っていました。細部にまで施された精緻な装飾からは、宗教的な意味だけでなく、芸術品としての価値や職人の高度な技術もうかがえます。
また、聖人を描いたパネル絵が展示されており、これらは中世ヨーロッパで教会の祭壇や礼拝空間を飾るために制作されたものです。金色の背景や細かな装飾は、神聖さや天上の世界を表現するための特徴的な表現とされています。また、ガラスケースの中には小型の聖遺物入れや祈祷用の道具なども見られ、当時の人々の信仰生活がどれほど日常に密接していたかが伝わってきます。
注目!《善きサマリア人のいる風景》
さて、ついに多くの人が目当てにする有名な作品のある部屋ににたどり着きました。まず、鑑賞したいのが、レンブラント・ファン・レインによる油絵《善きサマリア人のいる風景》(1638年)です。レンブラントは17世紀を代表するオランダの画家で、「光と影の魔術師」とも称される存在。暗闇の中から浮かび上がるような表現を特徴とし、人物や情景を明暗のコントラストによってドラマティックに描き出すことで知られています。
作品の題材である「善きサマリア人」は、新約聖書に登場するイエスのたとえ話に基づくもので、「隣人を愛せよ」という教えを象徴するエピソードです。この絵では、サマリア人が負傷者をロバに乗せて運ぶ様子が絵の一角に小さく描かれており、強調されているわけではありません。むしろ大部分は広大な風景が占めており、大きな木や光の広がる空が印象的です。こうした構図によって、善行が特別な出来事としてではなく、日常の中に静かに存在するものとして表現されています。
なお、レンブラントの作品はワルシャワ国立博物館にも所蔵されており、《額縁の中の少女》や《机の前の学者》などを見ることができます。18世紀にはポーランド国王スタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキが多くのレンブラント作品を収集していましたが、現在ポーランド国内に残っている作品は、ワルシャワとクラクフに所蔵されるわずか数点のみとなっています。彼の作品の中には、ポーランドの貴族や騎士を描いた肖像画もいくつか存在しますが、レンブラント自身は国外へ出たことがないとされているため、当時のポーランド人がオランダまで赴き、制作を依頼したのかもしれません。
《善きサマリア人のいる風景》は1939年の第二次世界大戦中、ドイツによって略奪されましたが、戦後、ポーランドの歴史家・美術史家であるカロル・エストレイヘルの尽力により無事にポーランドへ返還されました。エストレイヘルは、ドイツによって奪われた多くの美術品の回収に尽力し、チャルトリスキ・コレクションの復元にも大きく貢献した人物として知られています。
ダ・ヴィンチの数少ない女性肖像画


レンブラントの作品が展示されている部屋の奥にはもう一つの展示室があり、そこにはレオナルド・ダ・ヴィンチの《白てんを抱く貴婦人》が展示されています。他の作品と同様、写真撮影はできますが、撮影時にフラッシュが作動しないよう注意しましょう。
この作品は、現存4点のうちの1点とされる、ダ・ヴィンチによる女性肖像画で、ルネサンス期を代表する名作です。モデルはミラノ公の愛人チェチーリア・ガッレラーニ。腕に抱えられた白てんは純潔や高貴さの象徴といわれています。その繊細な表情や柔らかな光の表現には、ダ・ヴィンチならではの高度な技術と鋭い観察力が見られます。この絵画については別の記事で詳しく解説しているので、鑑賞前にぜひそちらもご覧ください。
ポーランドの英雄と文化をたどる展示


次の赤い壁が印象的なこの部屋には、ポーランドの歴史や文化を象徴する作品が所狭しと並んでいます。まず、入ってすぐ右手には、ショパンにまつわる貴重な展示があるので見逃さないようにしましょう。
上の写真の左側にあるのは、ショパンの死後に作られたデスマスク(死面)で、実際の顔立ちをそのまま写し取ったものです。静かに閉じられた表情からは、繊細で内面的な人物像が伝わってきます。その隣には、ポーランド人画家スタニスワフ・スタットレルによるショパンの肖像画(1858)が展示されており、生前の姿と死後の姿を対比するような構成になっています。これらは単なる記念的な展示ではなく、ショパンという存在をいかに後世へ伝えるかという、19世紀ヨーロッパにおける芸術家の記憶文化を示すものとも言えるでしょう。
ほか、この部屋にはポーランド史における権力者や君主の肖像画、武具、紋章などが一体となって展示されています。ヤン3世ソビエスキも再び登場。また(この写真には写っていませんが)、中世〜近世ヨーロッパの上着であるジュパン(ソビエスキの曾祖父、スタニスワフ・ジュウキェフスキのもの)、歴史画家ヤン・マテイコの作品《ポロニア》も展示されています。劇的な構図と豊かな感情表現によって歴史の一場面を強く印象づけるマテイコの作品は、この美術館の最後の見どころ。
▲《ポロニア/ポーランド》について解説しています
そして、チャルトリスキ家の記憶と歴史
最後の展示は、チャルトリスキ家の図書館コレクション。「本のあいだに挟まれていたもの」をテーマにしています。単なる書物や文書の展示ではなく、その中に残された手紙や写真、記念品などを通して、家族の歴史や人々の暮らし、そして当時の感情までも感じ取ることができ、とても興味深い内容になっています。
たとえば、葬送資料や追悼カードは、亡くなった人の記録であると同時に、その人をどう記憶しようとしたのかが伝わってくるもの。そこには当時の文化や価値観も色濃く表れています。また、パスポートや個人文書からは、不安定な時代を生きた人々の移動や人生の軌跡が見えてきます。さらに、手紙や髪の毛、装飾品といった小さな記念品は、家族や友人とのつながりを感じさせるとても個人的なもの。書物は知識を伝えるだけでなく、こうした思い出や意味を内に秘めた特別なものでした。
これらのさまざまな資料は系図とあわせて展示されており、チャルトリスキ家の長い歴史と愛国心をよりリアルに感じることができます。出来事としての歴史というよりも、「人の記憶が積み重なってできた歴史」を見ているような感覚になるはず。チャルトリスキ博物館は、単に美術品を鑑賞するだけにとどまらず、激動の時代を生きたポーランドの人々の営みや記憶そのものを伝える場でもあります。チャルトリスキ家にまつわる展示に始まり、その家族の想いをたどる展示で締めくくられるー まるで、ひとつの家族の歴史を辿るような構成でもあり、訪れる人々に深い余韻を残す美術館です。
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いかがだったでしょうか。思った以上に力の入った記事になってしまい、久しぶりに前編と後編で分ける構成になりました。文章力、ちょっとは上がったかな。実はこの記事は6年前に書きかけたきりになっていたものをリライトしたものです。リライトすべき記事が多すぎる































