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【5分解説】ユダヤ人ってどんな人?迫害・知恵の民族、ポーランドと約600年共存

ユダヤ人ってどんな人?
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クラクフ市公認観光ガイドの綾香です。旅行や生活に欠かせないポーランド情報を発信中! 2025年、東アフリカ・ルワンダでの教育支援に向けて【財団法人MOST】を設立。興味のある方はご連絡ください
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じっくり5分程度で読めます

 現在、パレスチナ問題やガザ地区の戦闘によってイスラエルが注目されていますが、そのイスラエルに多く暮らしているのがユダヤ人。
中世から現代までの世界史において極めて重要な位置にいるユダヤ人、皆さんはどれくらいご存知でしょうか?ー 今回の記事は、「お金持ちとか優秀とか漠然としたイメージはあるけど、ほとんど知らない」という方に向けて書いたものです。

うちの夫
100年前までは、ポーランドに最も多くのユダヤ人が住んでたよ。
あやか
ポーランド抜きにはユダヤ史は語れないと言っても過言ではない。
アブラハムの宗教をざっくり解説
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ユダヤの歴史は実に奥が深い…

 私は、もとからユダヤ教に詳しかったわけではなく、クラクフ公認ガイドを目指すスクールに通う中で、本格的に知るようになりました。公認ガイドの実地試験は3日間にわたって行われますが、そのうち1日は「旧ユダヤ人街・カジミエシュ地区」で実施されます。ガイドとして認定されると、ユダヤの博物館なども専門的に案内することになるため、生半可な知識では合格できません。私自身も何度かイスラエルに足を運び、学びを深めてきましたが、知れば知るほど興味は尽きないです。
 なお、現在のイスラエルとパレスチナの戦争については、また別の問題です。これについては改めて別の記事で考察をまとめてみたいと思いますが、今回は「ユダヤ人とはどんな人たちか?」というテーマに絞って、ザックリとご紹介していきます

旅行
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この記事に書いてあること


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1. 生きたアイデンティティ、ユダヤ人

エルサレムのユダヤ人

 「ユダヤ人」とは、単にユダヤ教を信じる人だけを指すのではなく、民族的な出自と文化的な背景をあわせ持つ存在です。伝統的には、母親がユダヤ人であるか、ユダヤ教への正式な改宗を経た人がユダヤ人と認められます。ユダヤ教への信仰がない場合でも、自身の血統やユダヤ文化に基づいてユダヤ人としてのアイデンティティを持つ人もいますが、だれでも自由に名乗れるわけではありません。
 
 ユダヤ人のルーツは、古代中東の遊牧民「ヘブライ人」に遡ります。彼らが紀元前にカナン(現在のイスラエルやパレスチナのあたり)に定住し、イスラエルの民となっていきました。聖書に出てくるアブラハムやモーセの子孫とされ、古代には「ユダ王国(紀元前931年頃~紀元前586年頃)」に住んでいたことから「ユダヤ人」と呼ばれるようになり、その呼び方が次第に定着していったのです。

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 黒い帽子やコートといった、今日の超正統派ユダヤ人の特徴的な服装は、18〜19世紀のポーランド南部やガリツィア地方を中心に形成されたスタイルであり、宗教的理由と地域の気候・社会風俗の影響が組み合わさって生まれたものです。

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2. 世界に広がるディアスポラ/離散の民

ユダヤ人のディアスポラ

 紀元70年、ローマ帝国によってエルサレム神殿が破壊され、多くのユダヤ人が古代イスラエルの地(現在のイスラエル・パレスチナ地域)を追われ、ヨーロッパ、中東、北アフリカなど世界各地に離散することになりました。これが「ディアスポラ(離散)」と呼ばれる長い歴史の始まりです。
 
 ローマ帝国は反乱を起こした民族に厳しい制裁を加えており、ユダヤ人の追放もその一例にすぎませんでした。しかしその後の歴史でユダヤ人が特に目立ったのは、彼らが移住先の文化や宗教にほとんど同化せず、ユダヤ教の信仰や律法、食事規定、教育制度、言語などを守り続けたからです。このような「郷に入っても郷に従わない」姿勢は、ユダヤ人が強いアイデンティティを保った証でもありますが、同時に現地社会で孤立し、偏見や迫害の対象となる要因にもなりました。そしてこの離散の歴史が、戦後のイスラエル建国へと繋がっていくのです。

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3. 迫害されつつも確固たる地位を築く

さまざまな分野で活躍するユダヤ人

 長い歴史の中でユダヤ人は各地で迫害や差別にさらされながらも、商業、金融、医学、学問などあらゆる専門分野で確かな地位を築いてきました。商業では、共通の言語や価値観、そしてユダヤ教の「慈善」の精神に基づき、ユダヤ人同士は互いに信頼し合い、公正な取引を重んじてきました。医学では、医療が発展していた中世イスラーム圏にいたユダヤ人とのつながりを通じて、ヨーロッパのユダヤ人も高度な知識に触れることができました。
 
 しばしば「嫌われ者」と見なされた彼らですが、金融、医療、通訳など多くの分野で欠かせない存在であり、ヨーロッパ社会は彼らに頼らざるを得なかったのも事実です。一方、ユダヤ人は独自の律法に基づく価値観で生活していたため、「何を考えているか分からない」と見なされ、ゆえに不安や不満の捌け口にされることも多かったと言えます。こうした逆境の中で生き抜く知恵と倫理観は、何十巻にもおよぶタルムードというユダヤの書物に深く刻まれており、ユダヤ人が時代と場所を超えて生き続けるための「知恵の書」として機能してきました。

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4. ユダヤ人を受け入れた国、ポーランド

ポーランドに逃れるユダヤ人

 ポーランドおよび後のポーランド=リトアニア共和国は、13〜18世紀末に国家が分割されるまで、一貫してユダヤ人に対して保護政策を取り続けました。迫害されてきたユダヤ人を迎え入れたという点では、ヨーロッパではほとんど唯一の例です。その背景には、単なる宗教的寛容さだけでなく、商才に長けたユダヤ人を迎え入れることで経済を活性化させたいという実利的判断もありました。
 
 1264年、国王ボレスワフ5世によって「カリシュ法令」が発布され、ユダヤ人に信仰の自由、商業活動の保護、司法上の権利を認めたポーランド。
これにより、ユダヤ人が安心して暮らせる環境が整い、国家とユダヤ人社会の間にウィンウィンの関係が築かれていきます。さらに14世紀には、カジミエシュ大王がこの方針を引き継いで強化し、ユダヤ人に対する法的保護を再確認するとともに、国内各地でユダヤ人が定住・活動できるエリアを拡大しました。こうした政策により、ヨーロッパ各地から迫害を受けた多くのユダヤ人が移住し、ポーランドはヨーロッパ最大のユダヤ人居住地、そしてユダヤ文化と学問の中心地へと発展していったのです。

ピャスト王朝の終幕 カジミエシュ3世大王

▲ カジミエシュ大王について詳しく書いてます

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5. 第二次世界大戦前のユダヤ人社会

第二次世界大戦前のユダヤ人

 第二次世界大戦が始まる直前、世界には約1,650万人のユダヤ人が暮らしており、その多くはポーランドや東欧に集中していました。ソ連やルーマニアにもユダヤ人が多く住んでいた理由は、これらの地域がかつてポーランド=リトアニア共和国の一部であり、中世から多くのユダヤ人が定住していた歴史があるからです。彼らは、都市部では商業や金融、医学、法曹、学問、芸術などで活躍し、農村部では伝統的なユダヤ共同体(シュテットル)を形成しながら、独自の文化や宗教生活を営んでいました。
 
 ユダヤ人社会は一枚岩ではなく、より宗教的な敬虔派、世俗的なユダヤ人、社会主義者、シオニスト(パレスチナへの帰還を目指す人々)など多様な思想や生活スタイルが共存していました。反ユダヤ主義や差別は多くの国で存在していたものの、同時にユダヤ人はヨーロッパ文化と社会に深く根を下ろし、活気ある知的・文化的貢献を行っていた時期でもありました。この多様で豊かなユダヤ社会は、やがてドイツのポーランド侵攻とホロコーストによって壊滅的な打撃を受けることになります。

ドイツの戦争責任
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6. 戦後のユダヤ人の移住と再出発、課題

イスラエルに住むユダヤ人

 第二次世界大戦後、ヨーロッパ各地には生き残ったユダヤ人がまだ多くいました。ただ、ソ連の共産主義体制下に置かれた東側では、ユダヤ人に対する宗教・文化的な抑圧が続いていたこともあって故郷を去らざるを得ず、パレスチナ(イスラエル)やアメリカ、カナダ、オーストラリアなどへ移住するユダヤ人が相次ぎました。1948年に建国されたイスラエルは、彼らにとって精神的にも現実的にも新たな拠り所となり、大量の移民を受け入れることになります。こうして戦後のユダヤ社会は、「生き延びる」段階から「築き直す」段階へと移行し、世界各地で記憶の継承や教育活動を通じて、失われたアイデンティティの再構築に取り組んできました。
 
 しかし現在のユダヤ人社会は、反ユダヤ主義の再燃や宗教と世俗の分断といった内的課題に加え、イスラエルとパレスチナの対立という深刻な政治問題とも向き合わなければなりません。特にイスラエルによるガザ地区への軍事行動や民間人の犠牲を伴う攻撃は、国際的な批判を招いており、世界各地のユダヤ人もその是非を問われる立場に置かれています。「ユダヤ人であること」と「イスラエル国家との関係性」の間で葛藤を抱える人も多く、平和と共存をどう実現するかという問いは、今もなおユダヤ人社会全体に重くのしかかっているのです。

ポーランドが共産主義だった頃の話
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ちょっと、つぶやいていい?
アイコン ユダヤ人はなぜ優秀で金持ちが多いのか?なにか特別な力を持ってるのでは?ーと、怪しまれがちなユダヤ人ですが、ユダヤの教義や文化的な面を知れば、その理由は明らかです。ただ、ここにはとても書ききれないので、「もっとユダヤについて知られざる秘密を知りたい!」という方はカジミエシュ地区でのガイドや、シナゴーグ博物館にて現物の宗教用具とともにお話しさせてください
アブラハムの宗教をざっくり解説
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あやか
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2件のコメント

Pogsalila より:

ユダヤ人に関する情報をありがとうございました。
ネットで調べると難しくてよくわからなかったですけど、綾香さんの説明でわかりました

コメントありがとうございます。
ユダヤ人の歴史や文化については、調べれば調べるほど奥深く、聞き慣れない用語も多いので戸惑われる方が多いです。私の説明が少しでもお役に立てたようで、嬉しく思います。

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