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今回の記事では、ポーランド人の偉大な科学者の一人、キュリー夫人が見つけた「ポロニウム(意:ポーランド)」についてお勉強。
ポロニウムは量子力学を説明するのにぴったりな原子であり、非常に興味深いので、このポロニウムの驚くべき性質を分かりやすく紹介します。
▲ 量子力学についてはこの記事参照

ポロニウムは分類としては金属で、ごくわずかにウランという鉱石の中に存在します。人工的に生成することも可能。毒性が極めて強く体内に取り組むと致命的な被害を及ぼすので、今の時代には滅多に使われませんが、昔は、カメラのフィルムや工場などで静電気を消す機械に使われていました。熱を出す力が強いので、宇宙のかなり冷えた空間の中で探査機を動かすために使われることもあります。
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キュリー夫人は夫ともにほぼ手作業で、なんと、約8トンものピッチブレンドという鉱石の中から数ミリグラム以下のポロニウムを取り出しました。たとえるなら、海水から1粒の砂金を見つけるくらい骨の折れる作業!
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ポロニウムは放射線を出す「放射性元素」のひとつであり、とても珍しく、ふだんの生活の中で出くわすことなんてほぼありません。
しかしこのポロニウム、壊れ方が常識では考えられないほど不思議で、その現象は量子力学の「トンネル効果」の理論でのみ説明できるのです。
ポロニウムの原子の中心には原子核があり、そこには陽子と中性子がぎっちり詰まってます。
しかし、ぎっちぎちすぎてポロニウムの原子核は常に不安定なので、中からアルファ粒子(陽子が2個、中性子が2個の粒子=ヘリウムの原子核)が飛び出してしまうことがあるのです。
これを「アルファ崩壊」と言いますが、ふつうに考えると、アルファ粒子が原子核の外に飛び出してしまうということは絶対にあり得ない現象。
どれくらいあり得ないかと言うと、あなたが壁をすり抜けてしまうくらい、あり得ません。

ただ、目に見えない世界(量子力学)では、トンネル効果という現象があり、通れないはずの壁をすり抜けてしまうことがあるのです!
昔の科学ではこの現象をうまく説明できませんでしたが、トンネル効果で説明することで理論と実験結果がぴったり一致し、これがまさに量子力学が本物の科学である証拠の一つになりました。

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粒子が電子レベルに小さく、すり抜ける対象があまり厚くなく、エネルギーの差が小さければ小さいほどトンネル効果は起こりやすいです。

スマホやパソコンのフラッシュメモリは電子が絶縁膜(壁)をトンネル効果ですり抜けることで情報を書き込むことができて、最近話題の量子コンピュータも量子の重ね合わせやトンネル効果を利用して処理を行うことができます。
太陽の光もトンネル効果のおかげで浴びられるのであり、もはや、私たちはこの摩訶不思議なトンネル効果によって生かされているのです…
こう言うと、よく「どれくらい壁にぶつかれば通り抜けられるの?」と聞かれますが、量子力学の世界は「確率」によって決まります。
壁の向こう側にもアルファ粒子が少しだけ存在する確率があるから、確率的にスッと出ちゃう。
ポロニウム210の場合、ぎっちぎちの原子核の中で1秒間に何兆回も跳ね返ってるので、そのうち1回くらいは粒子がポンと出てくるのです。

ただしこれは量子の世界だからすり抜けられるのであって、人間みたいな、量子よりも大きな存在となると理論上は可能でも実現不可。
人間が壁をすり抜けるには、体の中のすべての原子(10の28乗個くらい)が同時にトンネル効果を起こさないといけないので、絶対ムリです。
キュリー夫人がポロニウムを発見した1898年はまだこれがトンネル効果によるものだとは分かりませんでしたが、それからちょうど30年後、この原理が見事に解き明かされました。
キュリー夫人の時代からここ150年くらいの科学の進歩が凄まじく、自分が死ぬまでにどれほどの未知の世界を覗くことができるか楽しみです!
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