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前回の記事では、肖像画モデルのチェチーリアや絵画の歴史についてお話ししました。
背景を知ったうえで鑑賞する絵画はさらに奥深く、また記憶により残りやすいと思います。
さて、ではこの絵画を実際に鑑賞するとき、どういった見方ができるのでしょうか。
約530年前に描かれた作品はやはり、今でも解き明かされていない謎が多いようです。
それがまたミステリアスで惹かれるところでもあり、色んな想像を駆り立たせてくれますよね!
『白てんを抱く貴婦人』
制作者…レオナルド・ダ・ヴィンチ
制作年…1489年〜1490年
モデル…チェチーリア・ガッレラーニ
制作国…イタリア・ミラノ
種類 … 油彩
寸法 …54.8cm × 40.3cm
肖像画モデルの女性は、ミラノ公イル・モーロの愛妾だったチェチーリア・ガッレラーニ。
描かれた当時の彼女は17歳であり、貴婦人というより少女だったことが分かっています。
白てんを胸に抱く女性の上半身は左方に向けられ、光が当たった表情には少女のあどけなさと気品、そして知性をも感じることができます。
さて、この絵を見るうえでまず注目していただきたいのは、女性と白てんの組み合わせ。
汚れた場所を嫌う白てんは純潔と節度の象徴とされ、同時に彼女を愛妾としていたイル・モーロの象徴でもありました(イル・モーロはナポリ王より「白貂の勲章」を授かっています)。
また白てんはギリシャ語で「ガレー」と発音し、チェチーリアの姓「ガッレラーニ」と語呂合わせになっているのでは?とも言われています。

王様の肖像画で白いマントを被っている姿がよく見られますが、あれは白てんなんです。
中世ヨーロッパで白てんの冬毛(通称アーミン)は上質な毛皮とされており、好んで衣装に用いていた上流階級の人々は「その美しい毛皮が汚れるくらいなら死を選ぶ」と言ったとか…。
そこまで気品を感じられる白てん、どことなくチェチーリアに通じるものがあります。
若く美しいチェチーリアはまさに宮廷の花形であり、幼い頃から発揮される知性と教養の深さは多くの文学者からも高く評価されていました。
あるいは、白てんがイル・モーロの象徴であることから、愛妾だったチェチーリアとの関係を肖像画の中で強く表したのかもしれません。
正妻となることはなかったものの、彼が本当に愛していたのはチェチーリアとも言われています。

と、白てん前提で話をしましたが、描かれているのは実は白い被毛を持つフェレットです(!)。
次に見るのは、白てんを抱く右手。
女性の右手にしては、やや大きめです。
ダ・ヴィンチ自身がなぜか二度にわたって右手を描き変えており、「モデルは白てんを抱いていなかったのでは?」とか、「そもそも描かれていなかったのではないか?」と言われています。

そして絵を科学的に分析したところ、白てんの下の層からやや小ぶりに描かれた白てんの姿が浮かび上がり、さらにその下の層からは左手首に置かれただけの白てんが描かれていたとか…。
一度完成した肖像画を見直したダ・ヴィンチが、あとから白てんを描き足したのだとすれば、その技量にも驚かずにはいられません。
しかし、真相は闇の中です。
またこの右手をよく観察すると、爪や間接のしわまで精緻に描かれていることが分かります。

私が思うに、この絵の中で最もインパクトがあるのは、肌の白い女性を際立たせる黒い背景。
なんだか不自然だと思いませんか?
あまりにもコントラストが強すぎるような…。
この背景は誰かに塗りつぶされたもので、元々は窓が描かれていたという説があります。

または上の画像のように、まだらなグレーが塗られていたのではないかという有力な説も。
のちに誰かによって塗りつぶされたのは確かですが、背景は加筆というより完全にリメイクです。
背景が黒く塗りつぶされてしまったために女性と背景の色合いに違和感が生じ、その結果、肌の色まで濃く見えるよう修正されています。
頬にはほんのりとピンクを足し、鼻には影が加えられ、目元のあたりは若干明るくなりました。

次に、女性の顔をよくご覧ください。
まるで、額縁の外で起こっている出来事にハッとしているような表情は、またこちらをすぐに振り返ってきそうなほどの躍動感があります。
この斜めに描かれる肖像画は、ダ・ヴィンチが得意としていた絵画技法の一つだそう。
彼は「慎ましやかな女性を描くには、頭を下げるか、斜めに傾けるといった仕草がよい」と述べており、チェチーリアにはぴったりなポーズです。
ところで、髪型にも違和感を覚えます。
頬から顎へ髪が不自然に張りついているような感じで、誰が見てもすぐに分かるほどの加筆の跡。
これは、元々は薄いベールを頭に被っていたところを大げさな髪型に変えてしまったため、結果的に荒々しい修正となったと推測されています。

『白貂を抱く貴婦人』は加筆や修正がやや目立つものの、ダ・ヴィンチによる女性の肖像画の中では最も美しく保存状態のよい作品です。
そこに疑いの余地はありません。
また、ダ・ヴィンチ自身もチェチーリアのことを「私の愛する女神」と呼んでいました。
それほどまでに美しい女性が描かれているなんて、ますます生で見てみたいと思いませんか?
皆さんもぜひ、魅惑の名画『白貂を抱く貴婦人』をチャルトリスキ美術館でご鑑賞ください!
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dama z łasiczką
dama z łasiczką(ダマ・ズィ・ワシチュコン)は、今回紹介した『白貂を抱く貴婦人』のポーランド語名。
“damska”(ダムスカ)という単語は日常的にもよく見られますが、これは「女性向けの、女性用の」といった意味です。トイレや試着室なんかではよく、”damska” と表記されていますね。”dama” はその名詞です。



レオナルドの画筆のふれたあとが見えるような画像をありがとうございました
参考になったようで嬉しく思います。
ぜひ本物の絵画をじっくり鑑賞なさってください。